春の訪のい
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 



由緒正しく、それは閑静なお屋敷町の丘の上。
そこに住宅地が拓けるよりも先というほども、
歴史も古く伝統ある女学園、これありて。
清楚なマリア様の像が前庭に佇む、いわゆるミッション系の女子校で、
一番最初に創設されたのが この高等部。
此処からは少し離れた地になるが、
やや後設の中等部や初等科、幼稚舎も有する一貫教育校であり。
やはり後に創設された大学や短大は、
JRの線路の向こうという、少し離れたご近所にあって。
在校生に名家旧家の令嬢が多いせいだろか、
多少は外部の理工系や経済系へ進む顔触れもありながら、
それでも大半の卒業生たちがそちらへと進学してゆくのが習い。
そんなせいか、
幼稚舎から在学しておりましたという、生え抜きの顔触れともなると、
そういう校則なので 通学路の中で最低限の交通機関を使いこそすれ、
この学園の中という世界しか知らぬほどの深窓の令嬢も、
今時ともなれば稀ながら 多少は存在するようで。




     ◇◇◇



酷暑の余韻が長すぎて、
結果、それは短かった秋が終わった頃合いに、
そりゃあ大急ぎでやって来た今期の冬は、
極寒と評された昨年以上の凄まじさ。
所謂“最強寒波”が何度も訪れたその上、
冬なりの“爆弾低気圧”が発生した煽りか、
今期は特に平野部でも大暴れしてくれて。
都心や西の太平洋側地方でも、
例年でも見られよう“路面凍結”どころじゃあない。
道が埋まったほどの積雪があったり、
北の“しまき”を思わせる、横殴りの吹雪が見舞ったり。

 「明日からは暖かくなるとのことですが。」
 「そうなんですか?」
 「もうもう、
  早く暖かいのが当たり前の春になってほしいですわね。」

さすがに三月弥生ともなれば、
陽光も力を増し、風も甘く和らぐかと思いきや。
先月の大嵐ほどではないながら、
それでも日中に雪が降りしきるよなお日和が何度もお目見えし。
しかも、今度はやや暖かな日との“日替わり攻撃”なぞという、
小癪な乱高下を繰り返してくれるものだから。

 「それに振り回されてうっかりしていたら、
  暖かい日の花粉の飛散が随分なことになってもいて。」
 「そうそう。
  暖かくなったのにお風邪を召されたのでしょうかと家の者から訊かれて、
  それで あっと思い出したほどでしたもの。」

執事に扮した 某玉木宏さんの
“お嬢様、その○○、大変見苦しゅうございます”というCMを
地でゆく顔触れが当たり前においでの女学園。
とはいえ、今は前倒しの春休み、
期末考査も終わっての“試験休み期間”であり。
春先の地域戦を目指して部活動があるのでとか、
生徒会の引き継ぎでという顔触れ以外は出て来ない、
何とも静かな通学路だったりもし。
終業式のある20日前後を除けば、
四月初頭の入学式まで、それは静かな趣きが保たれ、
春の訪のいの ほんのかすかな兆しも、しみじみ探せる通学路だが、


  ほんの先週の某日は、ちょっぴり様相も異なっており。




そう、三月といえば、学生さんには卒業のシーズンでもあって。
こちらの風格ある女学園でも、
所在地こそ ほんのご近所であるとはいえ、
大学又は短大へ巣立ってゆかれる顔触れへの。
晴れ晴れとした、だが、寂寥もそこはかとなく漂う、
早春の一大イベントが催され。
淑やかな在校生らは元より、著名な来賓も多数出席する中、
それは厳粛、且つ華やかな式典が、
やや寒の戻りも強い空の下、
午前いっぱいを使って執り行なわれ…たのだけれども。

 【 こちら、臨時駐車場前。
   不審車輛、並びに不審人物なし。】

 【 了解、引き続き監視せよ。】

 【 こちら、学園西の斜面です。
   甘味処“八百萬屋”と書かれたボックスカーが
   通用門へ向かっております。】

 【 了解。】

 【 本部、本部、
   そちらは式への引き出物の和菓子を
   搬入に来られたのだろうと思われる。】

 【 そうか。
   だが、一応は監視カメラにて人物鑑定急げ。】

 【 承知しました。】

応答の合間に ザザッとかピピッとかいう雑音が混じる辺り、
携帯電話やスマホではない、独立電波を用いた無線連絡なのだろう。
こまめに情報を交換し合う輩がいるらしく、
手短に見たものを報告する者、
前以て調べた事柄を浚い、助言をする者が、
本部とやらへ向け、頻繁に連絡を取っている。
内容からして、丘の上の女学園を
取り巻くように監視している一団なようであり。
それを受けている側は、意外や意外、
学園内の駐車場に乗り入れた黒塗りのベンツだったりし。
車外に一人、ぱりっとしたスーツ姿の男性が立っていて、
駐車してからしばらくほどは、
式典が行われている講堂へどうぞと、
何人かのシスターがそうと勧めに近寄っていたものの。
そのたびに、それは慇懃にかぶりを振りつつ、
それは丁寧な口調で

 私たちは招待された◇◇の運転手です、
 主人を待っております身、
 参加は控えさせていただいております、と

身分証を出して説明するので、
確認も取れた以上は そうそう強くも出られぬか、
式が始まってからは誰も寄り付かなくなったままだ。
確かに来賓の乗って来た車だし、
学園側でも 場内においでのご本人にも連絡は取ったらしく。

 ご迷惑かも知れませんが、
 実は今日中に急ぎの連絡が入るやも知れぬ身です。
 なので、そちらへ呼び出されれば
 すぐにも急行せねばならぬがための配置…とまで言われては、

ビジネス社会の常識までは、
とんと通じていない身のシスターらには
断じることが難しかったか。
胡亂な方々ではないのならと、
触れずにおくことにしたらしかったのだが…。

 【 …っ。本部、監視カメラDが機能しておりません。】
 【 なに?】
 【 こちら、グラウンド南側柵外です。
   カメラF、破壊されております。】
 【 何だとっ?】

そろそろ、招待された来賓が紹介され、
それぞれからの祝賀の詞が次々紹介されている頃合い。
講堂へと集まっているのは、
名家の令嬢たちのみならず、各界の著名なお歴々でもあるというに。
そんな晴れの日の警護状況はといえば、
日頃の警備を契約しているという会社が設置した防犯カメラと、
受付と駐車場の出入り口に 今日だけ配置されたガードマンのみ。

  そんな生ぬるいことで どうするかっ、と

何か支障が起きてからでは遅すぎるとばかり、
こうして配備を敷いたらば、案の定、
怪しい気配が沸き立ったのがキャッチされたじゃありませんか。
昨今はネットを通じ、素人でも若造でも様々なアイテムを手に入れられる。
素性の怪しいサイトとやらでなら、
製品の性能が怪しかったり、多少は高くつくかも知れないものの、
それこそ身分証の提示もないままという覆面性の下、
盗聴キットからスタンガンまで、何でも買えてしまう時代なのに。
無防備と同じほどの頼りない警備のみと聞いた某氏が、
実は実は、末のお嬢様が今日の善き日に此処を卒業なさることもあり、
万全の構えをと、ご自身の身辺を護らせておいでな部署を持ち出し、
副家令でもおわす警備部主任のおじさまを本部長に、
臨時の大本営を仕立てたらしかったのだが、

 【 あっ、何だ今のはっ。】
 【 どうした、K班。】
 【 今、不審な人影が…わっ、】

 【 どうしたのだ、K班。
   おい、ササキ、マツウラっ。】
 【 本部、K班 殲滅されておりますっ。…え? うわぁっ】
 【 今のはゴトウか? どうした、何があった?】

やや声を荒げて呼べども、結局相手からの応答は返らぬまま。
全ての配置へ声をかけて回ったが、
この一瞬にというほどの素早さで、どこもかしこも音信不通となっており。
外に立っていた男性のほうも、
運転席の“本部長”が急に慌て出したことへと気づき、
日頃はよっぽど冷静なお人なのだろう、
それとの落差に驚いてか、
周囲の監視を半分にし、そちらを肩越しに伺っていたほどの焦燥ぶり。

 【 ……。】 【 ……。】

ついには、どのチャンネルに周波数を回しても、
どの班からも応答はなくなっての沈黙が漂うばかり。
何分おきと決めた定時連絡もないままなのは、
異常事態以外の何物でもないと。
男臭さの塊、鋭角な印象も強い野性味あふるるお顔を、
更に鋭利に尖らせて、それは難しい顔になった彼だったが、

 「………あっ。」

そんな自身のすぐ間際から、
先程 無線を通して聞こえたのと同じよな、
不意を突かれたことを思わせる、それは短い声が立ち、
はっとして顔を上げれば、車窓には見張り役の姿がない。
何が起こったのか、外を見回そうとシートから身を起こせば、

 「…なっ。」

その視界があっと言う間に灰色一色に覆われてしまうではないか。
外回りへの監視が次々に倒されたことに連動しているような手際であり、
ということは、そちらの陣営と このベンツがつながっていると
しっかり判っている手合いが相手だということか。

 「……。」

こうなっては迂闊に飛び出さない方がいい。
油断なく周囲へ注意を払い、
物音でも動く影でも、何か気配を拾えぬかと見回す姿勢は本気も本気。
某氏の下へとお抱えになる前は、
自衛隊や警察学校へも極秘で訓練に参加するという、
公けには名を伏せられた特殊な警備会社にいた身のお人。
手配にも抜かりはなかったはずなのにと、
内心でややもすれば焦り始めていたそこへ、

  コンコン、と

唐突に ちょっぴり硬質な音がした。
ギクリと肩が跳ね上がったが、
音がしたほうを見やれば小さな手が後部座席の窓に見え、

 【 …えっと、本部長さん? 聞こえますか?】

それと同時に、膝へ開いていたPCから延ばしたイヤフォンから、
聞き覚えのない声がした。
若い女性の声で、特に緊張もしてはいないような伸びやかさ。

 【 視野を奪ったのへ警戒なさるのも当然ですね。
   でもご安心を、ただシートをかぶせただけです。
   車体に傷も付かない素材ですから、そっちへの心配も要りませんよ?】

至れり尽くせりな言いようをしてから、

 【 お仲間からの連絡が途切れて心配なさっておいでかと思いますが、
   皆さんも無事です。
   というか、前以ての連絡なしに徘徊なさるんですもの。
   ウチの私設警備の者が怪しいと認識し、
   片っ端から問答無用と叩き伏せてしまいました。】

 「な……っ。」

周囲へ伏せた顔触れもまた、
政府要人専門の護衛官を養成するよな機関での
特殊な訓練を受けた辣腕揃いのはずだと、
それを言いかかり、口をあんぐり開けた彼のすぐ真横、
助手席のドアへとノックは移り、

 「あのぉ、外回りからの連絡は入っておりますでしょうか?」

此処には細かい砂利が敷かれていたはず。
なのに足音がしなかったその上、
そんな微妙な…呼応を思わす言い回しでの声掛けまであったため。
それへと多大に警戒してのこと、
ザザザッと反対側のドアへくっつくほど身を寄せたのは、
訓練にて叩き上げた能力以前の、本能から来た反応か。
だがだが、そこから車内を覗き込んでいたのは、

 「聞こえてますか?」

やや身を倒す格好で、顔が見えるようにと構えたそちらは。
間違いなく、こちらの学園の制服、古風な型のセーラー服姿の上へ
今日は寒いのでとカーディガンを羽織った女生徒が一人。
こんな時間帯に講堂ではないこんなところにいるということは、
運営にかかわる身の人だろか。
こんな場にいる自分を妙に思って近づいたのか、
だがだが、今は危ないと…
妙な存在に接近されかけている状況を思い起こした本部長殿、

 「キミ、中へ入りなさいっ。」

外からの監視があるやも知れず、
この子も仲間かと勘違いされ、
もしかして巻き添えを食って怪我でもせぬかと。
そこを案じての素早い判断、
つまりは“危ない、キミっ!”と庇ってくださってのことだったのだが。

 「…っ!」

助手席側へと身を移しつつ、急いでドアを開け、
その外にいた少女の手を掴みかかったところ。
その手を真上からバシィッと叩いた衝撃が。

 「…っ
 「こらこら久蔵殿、容赦ないぞ。」
 【 もしも〜し、ウチのが早速何かしでかしましたか?】

うおぉおぉっと、存外痛かった衝撃へ、
その手を押さえ、シートでのたうっていたおじさまの耳へ、
間近からの少女の声と、PCからの呼びかけが重なって聞こえたそうですが。


  ……何が起きていたものか、
  もう、お判りですね? 皆様にはvv(笑)


何といっても晴れの式典、卒業式が催される日とあって。
親しいお姉様たちともお別れかぁ、でもご近所に移られるだけだけどと。
感慨深く、同時に微妙にドライにも構えつつ、
厳粛な雰囲気の垂れ込める講堂の中、
在校生の席へと着いた身のまま、
こそりと周辺の監視体制のチェックを怠らなかったヒナゲシさん。
こちらのおじさまやその雇主が警戒したのと同じこと、
とっくに念頭に入れた上で、監視カメラもやや増やしておいたところが、

 怪しい車や人影が、
 学園の周縁を行ったり来り、
 停車したままうずくまってたりするじゃあありませんか。

そんな怪しいものを見つけちゃった日にゃあ、
そこはやっぱり、確認せずにはおられない。

 『私ちょっと見て来きます。』
 『何言ってますか、ヘイさんだけでなんて危ないっ。』
 『でもでも、お二人は式次第に関わってるじゃあないですか。』

今年はアタシ、アナウンス担当してませんて。
俺も…卒業証書授与の後の、賛美歌と校歌の斉唱の伴奏だけ。
とのことだったので。(注;白百合さんの補訳より)
三華様がた、別名、活動的過ぎて困りものなお嬢様三人衆が
一体どう動いたかと言えば。

 『…あ、きゅ…三木様どうなさいました?』

まずは三木さんが“貧血”を起こしィの。
それを白百合様とひなげし様が左右から支える格好で、

 保健室まで連れてゆきますわ、
 ええ、榊せんせえはおいでじゃありませんが、
 しばらく休めば大丈夫…と

悲壮な様子を装いつつ、講堂からこそこそ退出しィの。
校舎へ入ると すささ…と素早く居住まい正し、ついでに姿勢も低くして。
階段下という物陰へ身を隠してのそれから。
平八がスマホで監視していたカメラの位置をそれぞれへ割り振り、
危険へは近づいちゃダメですよと言いつつも、
それぞれへ最新型へと調整したての得物を手渡しィの。(こらこら)
こちらの“中枢”を担う平八が、教室から自前のPCを持ち出し、
講堂内部の進行状況を確認しつつ、
二人へ指示を出しながら、
同時進行で彼らの行動をまとめていた拠点を割り出したのだが。

 【 ごめんなさい、怪我まではさせるなと言ってあったので、
   大事に至ってないとは思うのですが。】

ひとまず、K地点とやらに停めてらしたボックスカーに、
18人の皆様を全員収納してありますと、
今現在の状況を伝え、

 【 女生徒ばかりの環境を案じてくださったのでしょうが、
   ウチはこの通り、
   そちら様の精鋭さえも畳んで、もとえ、
   お相手しちゃえる装備や顔触れが整っておりますので。】

ご心配には及びませんと告げてのそれから。

 雇主様は元より、対外的にも、
 何事もなかったとお伝えくださるということで、
 手を打ちませんか?と。

姿を見せない声も若い女性、
目の前にいるのも、金髪に玻璃の双眸も可憐な、
高校生らしきお嬢様二人とあって。
全てを信じ難いが本当なら恥もいいところ。
しばし迷ったそのうえで、
しょうがないかとの苦渋の決断、
是と頷いた警備対策本部長様だったが、

 「いやぁ、ビックリしました。」

 「あんなほっそりしたお嬢さんが、
  いきなり空から降って来て、
  腕振ってシャキンと特殊警棒伸ばして
  襲い掛かって来て。」

 「こっちも同じ子だと思う…。」

 「私どもの方に来たのは、
  モップの柄みたいな棒を操るお嬢さんだった。」

 「ツボを心得てるよね、どこを叩かれたか判らなかった。」

 「そうっ、痛いというよりびっくりして、
  もう後は覚えてないというか。」


  「きさまらぁ〜〜〜〜っ


某氏お抱えの精鋭警備陣営が、
この日からは さすがに少し間を空けてながら、
全員の特訓し直しを是非と申請したのは
言うまでもなかったそうでございます。







    〜Fine〜  14.03.12.


  *とんだ“卒業式の裏側”でございまして。
   こんなすっとんぱったんの後、
   大慌てで壇上へ駆け戻った紅ばらさんは
   見事なピアノ伴奏で賛美歌と校歌の斉唱をバックアップし。
   白百合さんは剣道部の先輩方への花束贈呈をこなされ、
   ひなげしさんは、
   数多の卒業生の皆々様からの握手責めに遭われたそうです。(笑)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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